困ったもの。
見苦しい。
じゃま。
消えてもらいたい。
というのが、私がその放置自転車に対して思っていた感情だった。
今年の自治会役員として、持ち主不明自転車問題を解決する、という役目を負っているわけで、その課題としては「金をかけないで処分する」ことなのである。
その自転車は、黒くて重くて頑丈で、いかついじいさんみたいな自転車なのだ。
ペンキ屋のたけし君のお父さんが引っ張ってたような感じかな?
荷台も大きくて、タイヤも普通のものより太いみたい。
かなりの重量に耐えられるような造りである。
サドルは割れてしまっているし、どうみても廃品だ。
ちょっと動かそうとしても、簡単には動かないのだった。
その自転車を、警察に持っていってもらうべく、空気を入れたり、埃を払ったりし始め、移動をしたりしていた。
そんなことをしているうち、いくらかでも「廃品」ではなく、現役の自転車らしくしなくては・・・というような意識が芽生えてきた。
不用品回収業者に引き渡すにしても、いくらかマシな品物に見えれば、金額がかからないかもしれない。某国に売り飛ばせば、某国の人が荷物を運ぶのに重宝するかもしれない、などと思う。
そうやって、この自転車と対面するうち、この自転車がこれまで、どんな人生を送ってきたのだろうか?と思えてきた。
いったい、どんな人が使っていたのか。この自転車も初めは新品で誰かが買ったものなのだろう。そして、使っていたものなのだ。
それから、いつか、誰かにここに持ってこられて、・・・そして、何年かここに置きっぱなしにされていたらしい。そのうちに、サビもついて、サドルも風化して割れちゃったらしい。
おい、君、さびしかっただろうね。
こんなところに置き去りにされてさ。
元の家に戻れるかな。
もう、こんなになっちゃって、今さらもどっても歓迎されないかもしれないね。
もう、すっかり忘れられちゃってる。
もしかしたら、持ち主さんは、もういないかもしれない。
それとも、思い出して喜んでくれるかな。
人生を棒に振ってしまった自転車なのかな。
ぺちゃんこになっていたタイヤに空気を入れたら、今日もまだつぶれていない。
パンクはしていないんだね。
長い間、時が止まっていたけど、
これから、また動き出すんだ。
自転車として復帰するのか、
それとも、鉄になるのか。
いずれにしても、ここにじっと立ち続けることはもうすぐ終わるよ。